6.ウイルスの将来

 

 天然痘のように人類が撲滅させることのできるウイルスの条件は
・人間にしか感染しない
・長期にわたって体内にとどまる持続感染を起こさない
・有効なワクチンがある
の3つである。現在これに当てはまるものとして、小児マヒを起こすポリオウイルスの根絶がWHOによって1988年からすすめられている。
 また、撲滅でなくウイルスを利用しようとする試みがある。
ウイルスの種類の中に、レトロウイルスと呼ばれる種類のウイルスがいる。HIVもこの仲間である。レトロウイルスはとりついた細胞のDNAに自分が持つ遺伝情報を組み込む能力がある(正確にいうと、このウイルスはRNAウイルスで、逆転写酵素を使って自己のRNAからDNAを作り出してそれを感染した細胞のDNAに組み込む)。これを利用して遺伝子治療が試みられている。つまり、先天的に遺伝子に異常があるひとにたいして、レトロウイルスに正常な遺伝子を乗せて運んでもらうのである。実際わが国でも1995年に北海道大学ではじめてこの遺伝子治療が行われた。
 現在治療が困難なエイズに対してもワクチンを作ろうという動きがある。エイズの原因となるウイルスはHIVだが、HIVは増殖能力が高く、変異が起こりやすいため、ウイルス自体を攻撃するものやウイルスの増殖を阻害する治療薬はすぐに効果がなくなってしまう。そこで、T細胞にあらかじめHIVの遺伝子、といっても発病しない偽の遺伝子を組み込ませる。前にも言ったようにHIVはレトロウイルスで、T細胞に自己の遺伝子を組み込んで増殖する。そこでT細胞にHIVの遺伝子だがエイズを発症しない遺伝子を先に組み込ませ、もしもHIVに感染したとしても先に組み込んでおいた偽の遺伝子があるためにHIVが増殖できないようにするわけである。最初に説明した、免疫システムに覚えこませるためのワクチンとは多少感じが違うが、先に予備対策をするという点で同じなので、このようなワクチンは遺伝子ワクチンと呼ばれている。
 今後エボラウイルスのような人類が遭遇したことのないウイルスが現れるかもしれない。しかし、医学が純粋に病人の治療を望めば克服することは可能だと思う。また、これまで敵であったウイルスを今、私たちは利用することで、役に立つウイルスに仕立て上げることも、今では可能となっている。
 地球に生命が誕生したときから生命はウイルスと付き合いがあったといわれている。あなたもただウイルスを怖がるだけでなく、興味をもって接してみてはいかがだろうか。

 

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